ここ数週間、ビールのカーボネーションについてお問い合わせいただくことが何度かありました。
ビールのガスボリュームが低すぎる・高すぎる、ストーンの使い方がわからない等々。たしかに考えてみればビールのプラントメーカーから設備を購入する際にカーボネーションの方法まで指導を受けることは
多くありません。日本語で解説しているWebサイトや書籍が充実しているわけでもないため
勘と経験でビールのガス入れを行っているブルワリー様が多いのではないでしょうか。
経験をもとに毎度素晴らしいガス入れができればそれに越したことはありません。
しかし改めて方法を知っておくことでガス入れ時間の短縮や別の作業者への引継ぎに生かせるようになるでしょう。このページではカーボネーションストーンの使い方とガス入れの手順、注意点についてまとめています。
本記事は投稿後写真などを追加していく予定です。皆様のお役に立ててくれれば幸いです。
カーボネーションストーンの種類と製造方法
まずは、"カーボネーションストーンとは何なのか"を知っておきましょう。
業界では大きく分けて2種類のストーンが使用されています。
1.ステンレス製
融点ギリギリまで加熱して固めることで棒状の多孔質形状にして作られています。焼結ステンレスと呼ばれます。
孔径は0.2μm / 0.5μm / 2.0μmが一般的で、0.2~0.5μmが主流。
2μmは0.5μmなどに比べて洗浄がしやすく気泡が大きくなるため短時間で大量の気体を送り込むことができます。
そのため2μmは炭酸ガスよりも、短時間に少量(数ppm程度)の酸素を送るエアレーションに適していると言えます。
孔径は肉眼では確認できません。既にお手元にストーンがある場合は孔径をメーカーに確認してみましょう。
2.セラミック製
米GW Kent社などで採用されている、陶器製のストーンです。
シリカやアルミナなどの原料を焼き固めて製造されています。
耐薬品性がきわめて高い、超微細な気泡を作れるなどのメリットがある一方で衝撃に弱いとされています。
急激な温度変化によってクラックが入りやすいことも覚えておくべきポイントです。
基本的には衝撃に強いステンレス製を使用するのがおすすめです。


ステンレス製:Tiantai Brewtech社より https://www.craftbreweryequipment.com/
セラミック製:Zarm&Nagel社HPより https://www.zahmnagel.com/product-category/carbonating-equipment/series-16000/
カーボネーションストーンの取り扱い
次に、ステンレス製のカーボンストーン使用を前提に、取り扱いについて説明します。
変色しただけでストーンの性能に問題はないのですが、青黒くなったストーンをタンクに入れるのはあまり気持ちの良いものではありませんね。
ストーンを使ったカーボネーションの手順
カーボネーションストーンを使ったガス入れのことをアイソバリックカーボネーション(等圧炭酸注入法)ともいいます。
既に何度もカーボンネーションストーンを使用している方はこの項を読み飛ばして頂いて問題ありません。
初めてカーボネーションストーン、ノズルを使用する方はよければご一読ください。
必要なもの
ノズルの耐圧確認
タンクに取り付けるカーボネーションストーン、ノズルはタンクにビールが入ってからでは取り外すことはできません。もしノズルから漏れがあった場合、ビールが絶え間なくタンクから漏れていくことになります。
そのため、タンクに取り付ける前での漏れ・耐圧確認が必要です。
ノズルにはノズル本体、ボールバルブ、ブルワリーによってはCO2接続用のクイック継手が含まれています。これらを組み合わせた状態でティー、圧力計を組み合わせた配管を作り、CO2で内部を加圧して漏れがないか確認しましょう。
(気体での耐圧確認のため安全には十分注意してください)
CO2の供給を止めても圧力計の値が下がらなければ漏れがないと判断することができます。
カーボネーション圧力の決定(Carbonation Pressure)
タンクに取り付けたストーンにかけるCO2圧力は以下のように決定します。
[Carbonation Pressure] = [Target Pressure] + [Altitude Adjustment] + [Static Head] + [Wetting Pressure]
ターゲット圧力(Target Pressure)の決定
液体がある温度のとき、それ以上気体が溶けることのできない状態を平衡状態といいます。そのときの圧力を平衡圧力(Equilibrium Pressure)といいます。
「液体が冷たいほどガスは溶けやすく、温かいほどガスが抜けやすい」と聞いたことがあるのではないでしょうか。ぬるいコーラは炭酸が抜けやすいのと同じですね。
ここでポイントなのは、同じ2.5GVで平衡状態のビールであっても、温度によって平衡圧力が変わるということです。
ビールのカーボネーションにおいては、ビールの温度に対して最終的に平衡圧力(Equilibrium Pressure)に達するようにターゲット圧力(Target Pressure)を決定します。
ヘンリーの法則に基づいた炭酸注入チャート(Carbonation Chart)を使って簡単に導き出すことができます。

たとえばビール温度2.5℃、ガス入れ後のガスボリュームを2.6としたいとき、チャートより2.5℃の行を横に追っていくと2.62が見つかり、このときの圧力は0.80bar(=11.6psi)と読むことができます。
ウェッティング圧力(Wetting Pressure)の測定。
カーボネーションストーンは非常に細かな孔をもっているため、CO2がストーンの孔を通り抜けるために一定の圧力が必要です。これをWetting Pressureと呼びます。
たとえば、Wetting Pressureが5psiの場合、ストーンに12psiかけても、液中の圧力は7psiを超えることはありません。そのためタンクへがCO2を入れる際にはターゲットとなる圧力にWetting Pressureを足す必要があります。
ストーン全体が浸かるような容器に水を張り、CO2を掛けて少しずつ圧力を上げていきましょう。 孔径にもよりますが5~6psiくらいでCO2がストーンから出始めるでしょう。
CO2が出始めたときの圧力をWetting Pressureとして記録してください。
標高の補正(Altitude Adjustment)
計算式には「絶対圧」を用いますが、チャートやゲージは「ゲージ圧」を表示しているため調整が必要です。
標高300mごとに0.5psiを加算してください。東京や大阪なら加算不要, 標高1000mの軽井沢なら+1.6psiという具合ですね。
タンク静水頭の補正(Static Head)
タンク内の液面がストーンの位置から高いほど液体の重さがストーンに加わり、水圧がCO2をストーン内に押し戻そうとします。そのためCO2がストーンを出るための圧力がさらに必要になります。
ストーンから液面までの距離が1mにつき1.4psiを加算してください。
1000L~1500Lサイズのタンクであれば無視しても問題ないのですが、タンクが縦に長いほどStatic Headは大きくなります。1000Lタンクを使用していた私の経験ではStatic Headは無視していました。
では例を用いてカーボネーション圧力を計算してみましょう。
[Carbonation Pressure] = [Target Pressure] + [Altitude Adjustment] + [Static Head] + [Wetting Pressure]
→ [Carbonation Pressure] = 11.6 + 0.8 + 1.4 + 5 = 18.8psi
よって、18.8psiをゆっくりと時間をかけてストーンにかけていくことになります。
流量は2L/min以下に設定してください。適切に設定できれば6~7時間でカーボネーションが完了します。
タンク上部の圧力計がターゲット圧力11.6psiに到達したときCO2の注入完了のサインとなります。
この方法を用いる最大の利点の一つは、物理法則が自然に働き、目標値に達した時点で炭酸の注入が自動的に停止することです。
実務では最適なガスボリュームはライン長さ、充填機の機種などで変わるためブルワリーによってベストなガスボリュームを模索してみてください。
ポイントは過炭酸にならないようにすること。過炭酸のビールから炭酸ガスを抜く際にはビールのアロマも逃がしてしまいます。
圧力計の精度について
ブルワリーで使用しているCO2レギュレータの圧力計、どの程度精確か把握しておきましょう。ものによってはせっかくの標高補正を圧力計の指示公差が吸収してしまい無意味になることもあります。
すべての圧力計は仕様としての指示公差(1.6級,0.6級など)があります。個体の指示ズレを把握するために、圧力計メーカーの校正を受けたマスタ圧力計を持っておくことをおすすめします、
私個人の意見としては、オーバーカーボネーションを起こした際が面倒なので標高補正と静水頭補正をゼロとし、あえて若干低めに圧力を設定することを選んでいます。
ガスが"液体に溶ける"とは
初めてカーボネーションを行う際、タンクの内部が見えない状況では「本当に正しく進んでいるのか」と不安になるものです。
液体に溶け込んだガスは、水分子の隙間に入り込むため目には見えません。お風呂の入浴剤のように液面までシュワシュワと立ち上っている泡は、実は「まだ液体に溶けきっていないガス」を意味しています。
つまり、ビールタンク内でもストーンから出たCO2が液面まで到達している状態は、効率的に溶け込んでいないサインです。その状態を放置すると、ヘッドプレッシャー(上部空間の圧力)だけが上昇し、単に液面から加圧しているのと同じ効率の悪い状態になってしまいます。これでは平衡に達するまで数日を要し、醸造スケジュールに支障をきたしかねません。
理想は、ストーンから出たガスがすべて液中で吸収され、液面まで気泡が到達しない状態です。目視での確認はできませんが、これを実現するには流量を2L/min以下まで落とし、時間をかけてゆっくりとガスを送り込むことが重要です。ガスを無駄なく、確実にビールへ溶け込ませるためのポイントとなります。
タンク内では炭酸ガスが昇ることで対流が生まれ、自然とビールが循環します。
使用後カーボネーションストーンの洗浄方法
使用後のカーボネーションストーンは以下の要領で洗浄しましょう。
ストーンの使用時には以下の手順で殺菌、取付しましょう
注意点は、取り外したストーンをいきなり苛性ソーダに接触させないこと。ストーン内のCO2と苛性ソーダが反応を起こし、ストーン内部で炭酸ナトリウムが発生します。
また、素手でストーンに触れないようにしましょう。
上記をお読みいただき、不明な点がある方はお気軽にお問い合わせページからご質問ください。
また、「うちではこういう風にやっているよ」といったご意見も募集しております。
参考資料:
炭酸チャート:© 2026 Brewing Calculators https://brewingcalculators.com/forced-carbonation-charts/
炭酸化メソッド: Glacier Tanks https://www.glaciertanks.com/carbonation.html?srsltid=AfmBOoqSlrgDrFn1FGffM-G6aL0XZywXAvBS2u0TGDOvyS_-BjSVgA-w
書籍: Beer Packaging Second Edition Edited by Ray Klimovitz and Karl Ockert